8月5日 続き
若者はすぐに僕をゲルに招き入れてくれた。カッパを羽織ってはいたが、ずぶ濡れでこのままだと風邪を引きそうなので、ザックからタオルを取り出して体を拭いた。
外はまさに嵐の様相だが、簡易住宅であるゲルの中は至って平穏、雨漏りの気配も微塵も感じない。人間は遥か昔からすでに立派な叡智を積み上げてきたんだと思い知らされた気がした。
どこから電源を引いているのだろう、裸電球1つの薄暗いゲルの中で1時間程経った頃か、入り口の扉が開いた。
若者と同じく逞しい体つきをした男性と、しっかりしていそうな雰囲気の女性。歳の頃は成人ぐらいの若者の、丁度親御さんのように見える。
事情を話すと、謎の異邦人がマイハウスにいきなり登場している事態にも関わらず、休んでいけと快諾してくださった。やはり若者(名を「ニャンバートル」という)(かわいい)の、親御さんであった。
お湯と乳で煮出したお茶と、乾パンのようなもの、それに付ける手作りのクリームチーズのようなものをいただく。
そうしている内に雨が上がってきた。
時間を見るともうすぐ夜の9時なのにまだ日があって、日没間際の景色が美しい。
空には虹も掛かっている。広大な大地の中で人間のスケール感なぞお構いなしに展開されている自然の中に身を置いていると、なんとも言えない感動が全身に広がっていく。
番犬君たちもすぐに心を許してくれた様で、親しげに寄って来ては遊んで遊んでとベロベロ。外の世界の者にはあれほど容赦ないのに、落差にやられる。。
その日は外でテントを張って寝ることにした。
前日と違って完全に草原の中でのテント。目の前にゲル、上には満天の星、すげぇ。
閑話休題的プチ事件。
夜中、星を撮りに外に出た際、2秒セルフタイマーの「ピッピッピッ!」という電子音にテンパった番犬君たちが一斉に吠えて襲いかかって来てしまい、「ゴメンゴメン!」と謝罪しながら飛び上がって逃げる羽目に。(おどかしてゴメンよ)
朝方、テントの頭上に何かが触れると思ったら、その番犬がびた〜っとくっついてる。
人と一緒に寝ることなんてない身だろうから、甘えたかったのかも知れない。
中々に壮絶な、そして人や自然の美しさに恵まれた、素晴らしい日だった。