道迷いからのトラブルで肝を冷やしながらも何とか轍のトレースに復帰し、フブスグル湖に向けて北上。当座の目標は、フブスグルの玄関口、ムルンという町。
前回の記事でも触れたが、フブスグル湖は国境越えてすぐそばのロシア、バイカル湖と同じ古代湖。バイカル湖の妹とも言われているそうな。バイカル湖は水深、貯水量、透明度、成立の古さなど世界一の湖だが、フブスグル湖も同様の特徴を有しているそう。
そして付近には永久凍土とタイガの森で、トナカイ使いの遊牧民「ツァータン」が暮らしているという。
ともかく北だ。アクセルを開けていると、緩やかな草原地帯の丘陵が、少しずつ大きな山塊へと変容していく。
最初は幾度かMaps meで正しい轍かどうかを確かめながら進んでいたが、その内「どうでもいい」という気分になってきた。
方角さえ概ね合っていれば大丈夫だろう。そして何よりもここは文明社会から離れた大陸の只中。「機器に頼らず進みたい」という思いが勝った。
そして、盛大に道を間違えた。。
二又に分かれている轍の右側を進んだのだが、進むほどに道は頼りなく、次第に山の中に吸い込まれていく。
いつの間にか、道だったものは山中の険しく狭い森の中、かろうじて残る轍のようなものに変わっている。
高低差と森の深さに背筋に嫌なものを感じる。
例えるなら日本のマイナー林道のような、安全も行き先も保証されていないような頼りない道に心拍数が上がる。
努めて冷静に、着実につづら折れの森の消えかかった轍を下っていく。
そして、何とか無事に山道は抜け、平地の轍に復帰することができた。
だが、Maps meを確認しても既に自分のいる一帯は道として表示されている場所ではなくなっていた。
さて、どうしたものか。
道は東西に思える方面に延びている。
当てずっぽうで進みながら、北の方に延びている道を進むが、程なく行き当たってしまう。
来た道を折り返しながら当てどなくしばらくさまよう時間が続く。
山道ほどの緊張感はなかったが、特段妙案も出てこない。なにぶんここは、地図にない場所なのだ。
そんな風に見当もなくしばらく走っていると、時折遊牧民のゲルが見えてくる。
今いる人里離れた山あいの草原地帯は、見方を変えれば家畜の餌が豊富にある遊牧好適地。岩陵、泥濘、砂礫、森林などは別として、一定の距離を置いて遊牧民が住んでいるのは道理だ。
そして遊牧民といえど、完全に文明と隔絶された存在ではない。頻度はともかく、町に出ることもあるだろう。
見えてきたゲルにお邪魔みてみる。「サンバェノー!(こんにちは)」
挨拶をすると番犬はトーンダウンし、代わりに家主が現れる。
「ムルンの町はどっち?」
「ずーっと向こうにある山を、ぐるっと右から奥に回り込んでいけばムルンだよ」
こんな時は翻訳アプリなども使わず、身振りを交えて会話する。全然問題なく通じるものだ。
遠くの山を目標物にする、スケール感の大きな話も心地よい。
お礼を伝え、ゲルを後にしようとすると、「お茶でも飲んでいけ」
と勧められる。
遊牧民は客人を必ずもてなそうとしてくれる。地球の歩き方にはそういう文化だと書かれていたが、ここまで肌で感じることになるとは。
お言葉に甘えてゲルにお邪魔する。
お父さんは働きに出ているのか、若く美しいお母さんとこれまた可愛らしい小さな娘たちが住んでいる。
この旅ですっかり飲み慣れたモンゴルならではの乳茶をいただいていると、「ご飯を食べますか?」と。
道を伺っただけなのにさすがにそれは申し訳なさ過ぎる(きっと手作りで用意し始めてしまうだろう)ので、そこは丁重にお断りする。
しばしの休息の後、僅かに後ろ髪引かれる思いもありつつ遊牧民の母子にお礼を述べて別れ、教えてもらった方角にバイクを進める。
穏やかな日差しと風に包まれた、良い時間だった。




















